医者としてのアナボリックステロイドに対する考えと現実の問題

2020年4月15日

筋肉増強剤であるアナボリックステロイドについて

どくすく(@dr_squater)です。

スポーツ、特にボディメイク系競技(ボディビルやフィジーク)で使用されている薬物であるアナボリックステロイドについて医者として思うところや、アナボリックステロイドとは何なのか、またどんな副作用があるのか、など説明していきます。

はじめに、この記事はアナボリックステロイドの使用をすすめるものではありません。

スポーツやボディメイク系競技におけるステロイド使用は絶対的に反対です。

どくすくの個人的な考え

はじめに個人的な意見を言います。

スポーツのコトだけを考えた場合、「ステロイドなんて、この世になければよかったのに・・・。」と思います。

ステロイドさえなければ、純粋にスポーツ観戦を楽しめ、ボディメイク系の競技も『称賛』という言葉のみで観戦できました。

オリンピック競技はWADA(世界ドーピング防止機構)というアンチドーピング組織が介入し、ドーピング違反者を厳しく取り締まっています。

抑止力が強く働くため、そこまでドーピングをうたがわずにスポーツ観戦を楽しむコトができます。(実際、毎年違反者はでていますが。)

しかし、ボディメイク系の競技は普通のスポーツ競技とは別ものです。

Bodybuilding Images and Schedules Bodybuilders Arenaより

そもそもボディメイク系の競技はオリンピック競技ではありませんし、スポーツなのかと問われると微妙なところです。

日本のボディメイク系の団体でいえばJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)が主催する大会以外に厳しくドーピングチェックをする団体はないかと思います。

規約上、薬物の使用をすべての団体が禁止していますが、ドーピングチェックをしないのであれば、それは何の効果も意味もありません。『たてまえ』だけのものです。

たとえばFWJ(フィットネスワールドジャパン、旧NPCJ)は、規約上ドーピング禁止をうたっていますが、ドーピング検査はないです。

そして、ボディメイク系の競技はステロイドの恩恵をもろにうけるため、一般のスポーツと比較して、ステロイドの使用者がめちゃくちゃに多いです。

どんな競技もドーピングによって競技力は向上しますが、ボディメイク系競技はステロイドの使用によって圧倒的に筋肉を大きくすることができるためです。

WADA(世界ドーピング防止機構)によると、ボディビルディング競技者を対象に検査したところ、22%がドーピング陽性(約5人に1人が違反者)だったと2017年に報告しています。

2017 Anti‐Doping Testing Figures by Sportより
2017 Anti‐Doping Testing Figures by Sportより

上記画像を見ての通り、ボディビルディングだけ異様に違反者率が高いです。

(右端の%AAFというのが、競技全体での違反者率を表す。AAFは、Adverse Analytical Findingsの略。尿や血液の分析結果が違反を疑うような陽性反応であったという意味。)

ストレングスおよびパワー競技の代表格であるパワーリフティングやウエイトリフティングと比較してもボディビルディングのドーピング違反率は異常です。

やっているトレーニング自体は、筋トレそのものなので、スポーツだといえますが、ここまで薬物が蔓延している時点でスポーツとしていいかわかりません。

ここまでの意見だと、ステロイドは完全にワルモノで、「ステロイドなんてこの世から消え去ればいいのに」と思うかもしれませんが、世界はそう単純ではありません。

そもそもこのステロイドは、筋肉を大きくするためだけに科学者が作ったものではありません。

病気で困ったヒトを助けるために作られたものでもあります。

スポーツとしては、ステロイドなんてなければよいですが、しかし、医学的にはステロイドは必要です。

ステロイドがあるおかげで助かっている人々もいるのが事実です。

こういった事情から、この世からステロイドを完全に消し去ることは不可能です。

次からは、ステロイドについて本格的に詳しく語っていこうと思います。

ステロイドは体に悪いのはなんとなく知っている。でも筋肉がめっちゃつくならつかいたい。

そんなジレンマをかかえるかたは、ステロイドというものを正しく理解する必要があります。

正しく理解すれば、「ステロイドは使用しないでおこう。ナチュラルなまま筋トレを続けよう!」と思えるはずです。

ステロイドとは?〜言葉の意味〜

ステロイドという言葉の意味から勉強していきましょう。

ステロイドのアルファベット表記は「STEROID」です。

語源はギリシャ語の「stereos:ステレオス」とされ、 「立体」という意味です。

ステレオ(stereo:立体音響)というコトバはよく日本でも使われていますが、同じ語源です。

これに、「-oid」、「〜のようなもの」という意味の語尾がついて「steroid:ステロイド」という言葉が誕生しました。

直訳すれば、「立体のようなもの」です。

実際のお話、ステロイドというのは、とある化合物たちの総称であって、ものすごくたくさんの種類があります。

次で、詳しく説明していきます。

ステロイドってなんだ?〜構造と種類〜

ステロイドというのは総称であって、単体の物体を示すコトバではありません。

医学的によく使われるステロイドは「プレドニゾロン」というもので、炎症を抑える効果があるため、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療でよく使われます。

しかし、このプレドニゾロンはスポーツでは使われません。

なんならこのプレドニゾロンというステロイドは筋肉を分解する作用(異化作用)すらあります。

筋肉増強作用がある有名なステロイドは、メタンジエノン(商品名 メダナボル®)やオキシメトロン(商品名 オキシポロン®)などのアナボリックステロイドといわれるものです。

(アナボリック:同化・合成という意味。カタボリックという意味の異化とは反対の言葉で、筋肉を作り出す意味で使用される)

つまりステロイドと一口にいっても、筋肉を分解するようなカタボリックステロイドであるプレドニゾロンやコルチゾール、筋肉を合成するようなアナボリックステロイドであるメタンジエノンやオキシメトロンがあります。

では、ステロイドとはなんなのでしょうか?

ステロイドを一言で説明すれば、ステロイド骨格をもつ化合物の総称です。

ステロイド骨格とは、3つのイス型6員環と1つの5員環が繋がった構造と説明できます。

意味不明だとおもいますので、画像をのっけておきます。

このような形が基本の化合物はすべて、ステロイドとよばれます。

みなさんが知っているビタミンD(たくさん種類あるが)もステロイドですし、肝臓で分泌され、脂肪の消化吸収を助けている胆汁酸もステロイドです。

嫌われ者のコレステロールも代表的なステロイドの一種です。

テストステロンで有名な男性ホルモンやエストロゲンで有名な女性ホルモンもすべてステロイドです。

ステロイドは非常に身近なものであり、体内でも勝手につくられ、食事でも摂取されます。

そして、スポーツ、とくにボディビル系で使われるステロイドは、男性ホルモンの一種である「テストステロン」を科学的に色々と変化させたモノのことを示します。

この男性ホルモンの一種であるテストステロンを魔改造したものを「アナボリックステロイド」とよびます。

ここから先は医学の世界や治療で使われるプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドではなく、筋肉増強剤、つまりドーピングの対象となるアナボリックステロイドについて説明していきたいと思います。

単にステロイドという言葉をつかっていたら、筋肉増強剤であるアナボリックステロイドのことだと思ってください。

アナボリックステロイドの筋肉増強効果

テストステロンを魔改造したアナボリックステロイドの効果をかんたんにですが説明します。

アナボリックステロイドを使用すると通常獲得できる筋肉の限界を突破することができます。

(摂取しただけで筋肉が大きくなることは基本なく、ステロイドを使用していないナチュラルの限界を突破できるだけです。つかったらみるみる筋肥大するわけではありません。)

通常、強度の高い筋トレを行うと、筋細胞が「筋肉を大きくしなさい」というシグナルを受け取るコトになります。

ここまでは、アナボリックステロイドを摂取してもしなくても、筋トレすれば普通の反応です。

人間の体は常に代謝というものを繰り返しており、代謝を簡単に説明すると分解と合成です。

普段どおり何もせず過ごしていても、筋肉は合成され、そして分解されています。

分解の方が速ければ筋肉は細くなります。これをカタボリックといいます。

逆に合成の方が速ければ、筋肉は大きくなり、これをアナボリックといいます。

そして、アナボリックステロイドを摂取すると、筋肉の分解がおさえられ、さらに合成がうながされます。

アナボリックステロイド未摂取に比べると、筋肉がどんどん大きくなっていくわけです。

「筋肉を大きくしなさい!」という命令はテストステロンなどのアナボリックステロイド以外にも多種多様で、複雑なしくみで成り立っています。

勘違いしてほしくないのは、ステロイドの使用をしていないナチュラルな状態の限界を突破できるというだけで、アナボリックステロイドを摂取するだけでムキムキになるわけではないということです。

あくまで筋肉を大きくするためにはトレーニングによる負荷が必要です。

トレーニングもせずにムキムキになるには、遺伝子ドーピングが必要です。

「筋肉を大きくしなさい!」という命令を邪魔するミオスタチンというタンパク質があります。

このミオスタチンがなければ、筋肉はトレーニングしなくてもどんどん大きくなります。

そして、動物実験ではこういったミオスタチンを作ることができなくしたり、ミオスタチンがあっても利用できなくしたりすることができます。

生まれつきミオスタチンがうまく作られなかったり、利用しにくい体質のヒトがおり、小さいことからめちゃくちゃムキムキのヒトがたまにいます。

世界で100人ほど確認されているとかされていないとか。

遺伝子ドーピングは、ミオスタチンを人工的に欠損させることを言います。

今後、スポーツのために遺伝子ドーピングというものが人間にされてしまうことが危惧されています。

科学の発展のおかげで、便利な世の中にはなりましたが、どうしてもこういったデメリットも生まれてしまいます。

アナボリックステロイドの副作用

ここからが本題です。

筋肉だけをただ大きくするのであれば、べつにアナボリックステロイドは悪者になりません。

どんな薬にも、かならず副作用があります。

一般に処方される風邪薬も、たくさんの副作用があります。

副作用の頻度や重篤性を考慮して、気軽に使える薬から慎重に使わなければならない薬までさまざまです。

医者は、その薬を使用することによるメリット・デメリットを考えた上で処方します。

例えば抗がん剤はとんでもない副作用が山程ありますが、メリットがデメリットを上回ると判断した場合、医者は抗がん剤を処方します。

デメリットが上回る場合は、癌でも抗がん剤は処方しません。

では、アナボリックステロイドはどうでしょうか?

まず、メリットはもちろん筋肉が大きくなることです。他にも良いことはありますがとりあえず置いておきます。

そして、アナボリックステロイドのデメリットはなんでしょうか。

数えれば数え切れないほどある副作用がデメリットです。

もちろんアナボリックステロイドにも多種多様なものがあり 、すべてに当てはまるものではありませんが、たいていあてはまるでしょう。

とりあえず、一覧にしてお見せします。

  • 多毛症
  • 精神症状
  • 女性化・男性化
  • 心筋梗塞
  • 肝障害
  • 心肥大
  • 発がん性、白血病

などなど。

あげればあげるほどキリがないです。

すべてが必ず起きるわけではないですが、おきる可能性があります。

特に死に直面するのが「心臓」と「肝臓」の被害でしょう。

あまり知らないかもしれませんが、心臓も実は筋肉でできています。というか筋肉のかたまりそのものです。そこにステロイド剤を投与すれば、当たり前のように心臓も大きく、つまり筋肥大します。

心臓が大きくなれば強くなると思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

心肥大は立派な病気で、心不全のリスクであり、死亡リスクを跳ね上げます。

ツール・ド・フランスなどに出場するロードレーサーもこういった薬物を使用し、競技性からボディメイク系より心臓が非常に肥大しやすく、何人もの方々が死亡しています。

つぎに肝臓です。

体で勝手に作られる、テストステロンやジヒドロテストステロンなどの物質は、肝臓で分解されて尿になって排出されます。

これは普通のことなので、肝臓にダメージはありません。

しかし、人間がつくった化合物であるアナボリックステロイドは、あえて分解されにくい構造に改造されたテストステロンです。

つまり、このアナボリックステロイドを分解するには、通常のテストステロンを分解する工程とは違った生理作用で分解されます。

通常とは違うわけで、よぶんな仕事をさせるようなものですから肝臓にダメージが加わります。

肝臓がダメージを負いつづければ、いきつくさきは肝硬変です。

肝硬変とは、死にかけの肝臓とでもいえばわかりやすいでしょうか。

肝臓は説明しきれないほど多くの人間にとって必要な化学反応が行われている工場のようなものです。

この工場(肝臓)が壊れてしまえば、人間は生きていくことはできません。

心臓とちがっていきなり止まることはないため即死することはありませんが、じわじわと体をむしばんでいき、生き地獄をみることになります。

肝硬変の患者さんをたくさんみてきましたが、かわいそうとしかおもえない末路をたどります。

他にも説明したい副作用はやまほどあります。

心臓や肝臓は死に直結しますが、目には見えないため意識されることが少ないです。

ステロイドの恐怖をあおるために、直接的な皮膚障害に対しても写真をのっけておきます。

Graphic Evidence Against Steroid Abuseより

ここまで説明しても、まだアナボリックステロイドの使用を考えますか?

量を守って、ケア剤も使えば大丈夫?

ケア剤なんてものはまやかしに過ぎません。

人間というのは非常に複雑にできています。

医者の自分ですらすべては理解できていませんし、まだまだ解明されていないことだらけです。

アナボリックステロイドの使用は、ただ筋肉を大きくするメリットにたいして、あまりにもデメリット、代償がでかすぎます。

これが、アナボリックステロイドがドーピング違反とされ、スポーツの世界で禁止されているイチバンの理由です。

アナボリックステロイドの歴史と種類

薬というのは、たいてい自然由来の物質を化学変化(メチル化やアセチル化、エステル化など)させてつくります。

アナボリックステロイドがつくられた上で欠かせない自然由来の物質は、「テストステロン」です。

このテストステロンという物質は、ヒトの精巣でつくられます。(女性の卵巣からも少量ですが分泌されています。)

テストステロンは1935年にオランダで発見されました。

そして、これがのちに筋肉を大きくする作用(つまり男性らしい体つきになる作用)があることが判明し、スポーツになんとか利用できないかを考えることになるわけです。

スポーツは多額のおかねを産み、ときに政治利用されてきた歴史があります。

各国、とくにアメリカや東側諸国は躍起になってこのテストステロンに関しての研究をすすめました。

テストステロンは、自然由来というかそもそもヒトが勝手につくりあげるステロイドであり、経口や注射で摂取したとしても容易に分解されて効果を失います。

つまり、テストステロンの効果を持続的に保たれるようなステロイド開発がスポーツで勝つために研究されました。

そして1955年にアメリカでついにスポーツに利用できるテストステロン類似物質の作成に成功しました。

テストステロンをそのまま摂取すると、簡単に分解されてしまうため、体内に取り込まれて代謝の過程でテストステロンになるものや(テストステロンプロドラッグ)、テストステロンの効果をもちつつ体で分解されにくいものなどさまざまなアナボリックステロイドがあります。

体の中でテストステロンに変換されるもので代表的なものは

  • テストステロンシピオナート
  • テストステロンエナント酸エステル
  • テストステロンニコチン酸

などがあり、いずれもテストステロンの名をもっています。

テストステロンの効果をもちつつ、分解されにくいもので代表的なものは

  • メチルテストステロン
  • オキシメトロン
  • ステンボロン
  • メタンジエノン

などがあります。

スポーツで勝つために、このようなたくさんの種類のテストステロン類似物質、アナボリックステロイドが生まれました。

その研究の中で病気の治療に使用されるようになったテストステロン類似物質もあります。

ドーピングチェックとステロイド開発はいたちごっこであり、今後も多種多様のステロイド剤が開発されていくことでしょう。

そして、ステロイドの歴史を語る上で欠かせないのは、オリンピックのお話です。

オリンピックとステロイド

オリンピックで勝つために、ステロイド開発が各国で行われたことは、先に説明しました。

現在も問題となっていますが、特にステロイドが有効とされるオリンピック競技は陸上競技や重量挙げ(ウエイトリフティング・オリンピックリフティング)です。

ボールを扱う競技とは違い、陸上競技や重量挙げは技術も大切ですが、それよりもなによりも身体能力がどれだけ高いかが大切です。

つまり、身体能力を底上げするステロイドと陸上競技・重量挙げは相性抜群なわけです。

個人的に大好きな重量挙げはとくにステロイドの仕様が蔓延しているようです。

今後、このようなステロイドが使用されるようであればオリンピック競技から除外される可能性すら示唆されています。

ドーピングなどせずにまっとうに競技をしている選手からすると最悪です。

ナチュラルな選手は

この世からステロイドなど消えてしまえばいいのに

と考えるでしょう。

かりに自分が重量挙げのオリンピック代表を目指していれば、ステロイド利用者をめちゃくちゃ憎みます。

しかし、スポーツは政治とカネがからむため、かんぜんにドーピングを消し去ることは不可能です。

選手個人が、「ゼッタイに使用したくない!」と考えていても、国からの命令で「使用しなさい」と言われたらなかなか反抗できるものではありません。

スポンサーからの命令やプレッシャーも、もしかしたらあるかもしれません。

ドーピングというものはとてもやっかいなものであり、この世から消し去ることは並大抵のことではありません。

話が少しそれましたが、日本でも有名になったオリンピックのドーピングによる事件を2つほど紹介したいと思います。

ベン・ジョンソンとスタノゾロール

Ben Johnson:6 Things Every Sprinter Should Doより

ベン・ジョンソン選手は、1988年のソウルオリンピックの100m走で幻の金メダルと幻の世界記録を樹立した選手です。

今でこそ100m走といえばウサイン・ボルト選手ですが、当時はベン・ジョンソン選手でした。

その幻の記録は「9秒79」で、前年度までのカール・ルイス選手の記録である「9秒83」を超えるものでした。

しかし、競技後にベン・ジョンソン選手がジヒドロテストステロンという物質由来の化合物であるスタノゾロールの使用が判明し、記録もメダルも剥奪されました。

そして、繰り上げで、「9秒92」であったカール・ルイス選手が金メダルを得ました。

しかし、奇妙なことにカール・ルイス選手も選考会でエフェドリンという薬物(興奮剤の一種で風邪薬に入ってたりする)の陽性反応がでて、ドーピング違反となりそうでしたが、最終的にソウルオリンピックに出場が許可されています。

二人の命運をわけたのはなんだったのでしょうか?

ベン・ジョンソン選手もカール・ルイス選手も時代背景を考えるとふたりともドーピングしていたように個人的に思います。

本当かどうかはわかりませんが、ベン・ジョンソン選手も試合後しばらくたって

「当時の記録保持者はみんなドーピングしていたよ」

と語っています。

ベン・ジョンソン選手はジャマイカ生まれのカナダ国籍で、スポンサーについていたのはイタリアのスポーツ用品メーカーの『ディアドラ(Diadora)』という大きくはない会社でした。。

もしあのままベン・ジョンソン選手が世界記録を樹立、金メダルを獲得していれば、このディアドラという会社に莫大な富が舞い降りたことでしょう。

(実際には、ベン・ジョンソン選手のおかげで多少のお金は動いたと思います。)

しかし、それを快く思わない企業はたくさんあります。

アディ◯スやナ◯キといったスポーツ関連用品の大企業はそれを許しません。

こういった莫大なお金が動く現場のせいで、ドーピング違反者とされてしまったとベン・ジョンソン選手は語っています。

カール・ルイス選手がアメリカ国籍であったことも関係しているかもしれません。

オリンピック競技という神聖な場でさえ、こうしたお金の問題がうごめいています。

真実は本人たちにしか知り得ようありませんが、ドーピング違反者たちはものすごい苦悩を抱えていることが、われわれ一般人も理解することができます。

アテネオリンピックにおけるハンマー投げでのドーピング違反、それによる繰り上げでの室伏広治選手の金メダル獲得

ハンマー投げ、室伏広治 写真特集より

もうひとつのドーピング事件をお話します。

日本人とロシア人のハーフであり、超人的な身体能力をもつ室伏広治選手がかかわった事件です。

2004年のアテネオリンピックのハンマー投げで、「83.19m」の記録を樹立し、ハンガリーのアドリアン・アヌシュ選手は金メダルを獲得しました。

室伏広治選手は「82.91m」の記録で、惜しくも銀メダル、表彰台の一番上に立つことはできませんでした。

しかし、大会後、アドリアン・アヌシュ選手がドーピング違反で失格となり、室伏広治選手は繰り上げで金メダルを獲得しました。

ここで、かりに自分が室伏広治選手だったら手を万々歳にあげて喜ぶことはできたでしょうか?

オリンピックというスポーツマンにとっては憧れで最大の目標である舞台で、表彰台の一番上に立つことにどれだけの価値があるでしょうか。

想像することさえむずかしいその表彰台のイチバン上に立ち、観客や関係者からおしみない拍手を得るはずだったのはドーピングしていない室伏広治選手でした。

記録上、金メダルは室伏広治選手ですが、表彰台の一番上に立つことはできませんでした。

自分であれば、ドーピングしたハンガリーのアドリアン選手を憎んでも憎みきれません。

ドーピングした選手は、じぶんだけでなく、同じ競技をしているヒトたちを巻き込みます。

「それをわかってて使用しているのか!」と選手個人を責めたくなります。

しかし、ドーピングと国やお金について考えれば考えるほど、アドリアン選手にも色々な苦悩があったのだと考えられます。

スポーツにおけるドーピング問題は、本当に難しい問題なんだとココロから思います。

ステロイドとビジネス、ステロイドユーザーに対しての個人的な意見

話がだいぶ大きくなってしまいましたが、ボディメイク系競技におけるアナボリックステロイド使用の話をしていきたいと思います。

オリンピックのお話でもあったとおり、話は単純ではありません。

競技であり、スポンサーがついている以上どうしても「おかね」の問題がからみます。

スポンサーとしては、おかかえの選手が優勝してくれれば、そのスポンサーが出している商品がたくさん売れます。

スポンサーがついている選手は、なんとしても優勝するためにがんばります。

そして、ボディメイク系の競技で優勝するイチバンの近道ないしそれを使用しないと勝てないのがこのステロイドです。

ステロイドをつかった自慢の肉体をメディアで披露することで、選手は有名になります。

そして選手は言うわけです。

「この企業のプロテインやサプリメントを摂取すれば自分のようになれる」と。

それを信じた一般人は、その企業のサプリメントを購入するわけです。

こうして、選手は企業からお金をもらい、企業もお金を手に入れるわけです。

しかし、これは「win-win」の関係といえるでしょうか?

ビジネスは基本的に「win-win」の関係が成立してなければなりません。

「win-lose」の関係であれば、ビジネスはいずれ破綻すると言われています。

ボディメイク系競技におけるビジネスは、「win-lose」の関係で成り立っていると個人的には思います。

ここでのloseは、選手とサプリメントの購買者、つまり一般人です。

選手はステロイド摂取で健康を犠牲にしていますし、購買者はサプリメントの摂取だけで筋骨隆々になると騙されています。

いずれ、購買者もサプリメントの摂取だけでは筋骨隆々にはならないと気づくでしょう。

そして、筋肉になるイチバンの近道は「ステロイドの使用」となるわけです。

あこがれの選手が「ステロイド」をつかっているとわかれば、ことが進むのは速いです。

無知な少年や青年たちはあっというまに「ステロイド」に手を伸ばします。

他人の健康を害してまで得たお金と名声にどれほどの価値があるのでしょうか。

利己的で、おのれのコトしか考えていないような思想だと言えます。

他人を幸せにして、さらに自分も幸せになって、はじめて幸福と呼べます。

ボディメイク系競技をしていて、ステロイドを使用している選手たちは、今一度このような考えを持ってほしいです。

あなたにあこがれている少年少女たちに胸を張って自分がやってきたことを語れますか?

少年少女立ちの健康を害して、不幸にしてその地位を得たのではないですか?

YouTuberであるヒカキン氏が

「他人を笑顔にして食うメシはうまいか?」

と言われてますが、最高の褒め言葉ではないでしょうか?

あなたのそのステロイドで作られたすばらしい肉体は、すべてのヒトを笑顔にしていますか?

ステロイドの健康被害を治療する医者としては到底そうは思えません。

最後に

ステロイドユーザーを単純に否定することは正直できません。

選手にも家族がいるだろうし、それで生計をたてて生活しているでしょうから。

しかし、ステロイドの使用は確実に身を滅ぼします。

自分の身が滅びるだけなら、そのヒトの価値観なので他人である自分がとがめる必要はありません。

しかし、ステロイドで作り上げた肉体をネットメディアに掲載してしまうと自分の身が滅びるだけではすみません。

確実に他人の身、特に知識や経験が少ない少年少女の体をむしばむことになります。

それを理解したうえで、ネットメディアにステロイドで作り上げた体を掲載しているなら、自分はめちゃくちゃに批判し罵倒します。

「さいあく。カッコよくもなんともない。ハリボテの体。チート行為だ!」

と。

一般人、とくに少年少女への影響力というものを考えてほしい。

アナボリックステロイドというあきらかな毒を飲んで、病気になって、健康保険を使用して治療するなんて言語道断です。

(アルコールやタバコによる病気を健康保険で治療してますが・・・。)

ステロイドユーザーはお願いですから自宅に引きこもって、けっしてメディアにその画像を上げないでいただきたい。

あなたに憧れる純粋無垢な少年少女の顔を想像して欲しい。

また、ステロイドの使用を検討しているヒトも、ここまで読んでくれたらステロイドの使用を踏みとどまってくれたと信じます。

ステロイドの使用は筋骨隆々への近道かもしれません。

しかし、ゲームで例えれば、それは紛れもないチート(データ改造)行為です。

改造したゲームで遊んで、大会で優勝して本当に嬉しいでしょうか?楽しいでしょうか?他人から称賛されるでしょうか?

自分はダンクがしたくでトレーニングしていますが、トランポリンをつかってダンクしても何も嬉しくありません。

ステロイドを使用して作った体は、すべての人を笑顔にすることはゼッタイにできないとはっきり言えます。

どくすくのひとこと

ネットで有名な筋肉戦士でステロイドについて言及しているヒト以外は全部黒なのではないかと思ってしまうほどに心が汚れています。

参考にしたサイト

きくな湯田眼科-院長のブログ「糖質コルチコイド」

2017 Anti‐Doping Testing Figures

Does Sasquatch have a myostatin deficiency???

What are the effects of overexpressing myostatin inhibitors?

Graphic Evidence Against Steroid Abuse

Ben Johnson:6 Things Every Sprinter Should Do